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美術館訪問レポート下志津小学校の美術館訪問
ミテ・ハナソウ・プロジェクトの学校連携事業には、学校にミテ*ハナさんたちが出向いて授業を行い後日子どもたちが佐倉市立美術館を訪問する「事前授業+美術館訪問」、事前授業なしの「美術館訪問」、学校にて行う1回完結の「出前授業」の3つの形があります。いずれも対話型美術鑑賞の研修を受けたミテ*ハナさんたちが子どもたちの鑑賞活動をサポートするものです。
子どもたちはどのような経験をするのか、2016年の美術館訪問をレポートにまとめました。
文:米津いつか
事前授業を経ての子どもたちの美術館訪問
13時。教頭先生と担任の先生の引率の元、子どもたちがバスで美術館に到着しました。事前授業で会ったミテ*ハナさんたちもいるものの、エントランスに集合した子どもたちは少し緊張した様子です。4グループにわかれて、ミテ・ハナさんと一緒に4Fのホールへ移動します。名札づくりで子どもたちとの距離を少しずつ縮めたあと、学芸員の永山さんから美術館の役割や、鑑賞するにあたってのルールが確認されました。
美術館で気をつけるべきことを頭に入れたら、いよいよグループごとに展示室へ。事前授業で見た作品を見つけて指さしたり、本物の作品を目の前にして感嘆の声もきかれました。
各グループごとにミテ*ハナさんが選んだ作品の前で対話型鑑賞が始まりました。作品とファシリテーターのミテ*ハナさんを囲むようにして、立っているグループもあれば、座っているグループもあったり。じっくり、じっくり作品を眺めています。ミテ*ハナさんの問いかけに、どのグループの子どもたちも、ためらうことなく手をあげたり、積極的に発言している様子が印象的でした。
グループ鑑賞で、自分の意見を言ったり、みんなの意見を聞いたあとは、個人鑑賞です。ワークシートを持って絵の前に立った子どもたちの表情は真剣そのもの。静かでぴりりとした空気が展示室に流れました。
先生から見たこの授業の意義
子どもたちが個人鑑賞に取り組んでいる間、担任の今井先生にお話を伺いました。
― 今回の学校連携事業はどのような取り組みと捉えていらっしゃいますか
佐倉市立美術館で行われているミテ・ハナソウ・プロジェクトと連携して、子どもたちに対話を中心とした鑑賞の仕方を教えていただきます。普段はなかなか本物の作品に触れることがないですし、学校での鑑賞には限界があります。いろいろな見方があることを知る貴重な機会だと考えています。
― 事前授業と今日の美術館での子どもたちの様子を教えてください
事前授業のときは、子どもたちはとても緊張した様子で“何が始まるんだろう”とドキドキより不安が大きかったようです。今日も初めは緊張も見られましたが、活動していくなかで、表情がやわらかくなってきて、進んで手をあげるなどとても積極的になっていきました。また、普段なかなか手を挙げない子がたくさん意見を言っていることが多く、印象的でした。取り組んでみて、事前授業があったから今日の学習が深まったのではないかと感じます。事前授業から段階を踏んで、今日こうして自由に鑑賞できるのがいいと思います。
ミテ*ハナさんは、子どもたちの発言をすべて受け入れて話をしてくださるので、子どもたちが安心して活動に取り組めることがすごいなと感じました。あれだけの緊張感をほぐしてくれる存在があるから、積極的な鑑賞ができるのだと思います。学校の教科で染み付いている正解不正解を判断される回答とは違って、人はいろいろな考え方があって、自由な発想で話をしていいのだということを教えてくれました。
―ミテ*ハナさんの活動の様子を見てどんなことを感じましたか
ミテ*ハナさんは、子どもたちの発言をすべて受け入れて話をしてくださるので、子どもたちが安心して活動に取り組めることがすごいなと感じました。あれだけの緊張感をほぐしてくれる存在があるから、積極的な鑑賞ができるのだと思います。学校の教科で染み付いている正解不正解を判断される回答とは違っ
個人鑑賞を終えてホールに戻った子どもたちに、今井先生があやまっていました。「個人鑑賞のときに、みんなが非常に集中していたのに、話しかけてしまって」と。それほどまでの子どもたちの集中力に、先生も心から驚いていたようです。
また、一緒にいらしていた教頭先生は、他の地域のさまざまな教育現場での経験から見ても、この活動を「どこの市町村でもできるわけではなく、佐倉市の教育財産を使ったすばらしい試みで、一日外に出てきてやる価値がありますよね。」と話してくださいました。「絵を介して、グループ鑑賞では自由な考えを発信でき、また互いの意見を共有する。言い換えれば“享受”ですよね。このことは、社会の中でも必要なことで、子どもたちには教科書からでは得られない学びにつながっていくと思います。」
子どもたちとの対話の中で感じたこと
子どもたちが個人鑑賞に取り組んでいる間、担任の今井先生にお話を伺いました。
今日の美術館訪問を担当したミテ*ハナさん何人かに話を聞かせてもらいました。
あるミテ*ハナさんは、「私は事前授業には行ってないんですけど、一つの作品についてみんなでそれを観よう、誰かが話していたらみんなでそれを聞こう、という雰囲気が出来ていて、事前授業の賜物だなと思いました。」と振り返ります。
「私のグループは、事前授業で前もって触れた作品を鑑賞したわけではなかったのですが、だからこそより一層初めて観る作品にじっくり向き合っている様子でした。グループ鑑賞を始めて1-2分でひそひそとお友達と話し始め、ほとんど初めて触れた作品でも対話が始まるんだと思いました。」
「事前授業でアートカードを使って授業したときには、おとなしかった子が、今日は生き生きとした表情で積極的に話してくれたのは嬉しかったですね。」
ファシリテーターをしたミテ*ハナさんが、「ファシリテーターをやっていると、子どもたちが言ってくれたことを、全部聞き取れているかなという不安があります。振り返りをしたときにもサポートの人がそれを指摘してくれたりして、周りはしっかり見ていることに気づかされます。」と話すと、「それは第三者だから言えることであって、ファシリテーターとしては毎回これでよかったのかな、の繰り返しだよね。」というコメントが添えられ、みなさん大きく頷いていました。
「誰かが言った意見を聞いてさらに身を乗り出すように意見を重ねてくれる子どもがいるとすごく嬉しい。」のだそうです。ミテ*ハナさんたちは、声だけではなく子どもたちの様子もとてもよく観察されているようでした。
「子どもたちがまたやりたいなと思ってくれることが一番なのですが、絵のことを話してくれたりとか、鑑賞の楽しみ方を習得してくれた実感があります。自由鑑賞(個人鑑賞)のときに、あれだけ集中してワークシートに書き込んでいるというのは、興味がなかったら大人でも出来ないことだと思います。」と手応えもしっかり掴んでいます。
「事前授業に行ったときも先生が、子どもたちとこんな対話の仕方があるんだと再認識したとか、いつも話さない子が生き生きしていたなどと喜んでくださいました。プロである先生にそう言ってもらえたのは自信につながります。」
「アートは自分の意見を自由に言っていいんだということがわかってくれたんじゃないかと思います。迷っていたことも含めて言っていいんだという実感が積み重なれば、意見を持つ、言う、というところに発展するのだと思います。」
「ミテ*ハナの活動は一期一会。子どもたちとの対話によって、とても自分の心が豊かになっています。」
反省もしながらも、とても充実した表情のミテ*ハナさんたちでした。
文:米津いつか
出前授業レポート千代田小学校への出前授業
ミテ・ハナソウ・プロジェクトの学校連携事業の一つ、ミテ*ハナさんたちが学校に出向いてアートカードを使った美術鑑賞を行う「出前授業」。ここでは2016年の出前授業についてレポートします。
文:米津いつか
アートカード「ミテ・ハナソウ・カード」を使った活動
10月に、佐倉市立千代田小学校5年1組と2組の2クラスの授業で、それぞれ1時間の授業が実施されました。アートカードを使った活動は、美術作品のハガキ大のカードで、楽しく遊びながらカードの作品を見て感じたことを共有し、美術鑑賞への関心やコミュニケーション力を高めるというものです。全国各地の美術館で、所蔵する作品を使ったオリジナルのアートカードが作られていて、佐倉市立美術館では、所蔵品60点をカードにした「ミテ・ハナソウ・カード」を連携に使用しています。この日、千代田小学校に集合したのは10人のミテ*ハナさんたち。アートカードや活動にあたっての準備もばっちりです。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴ったところで、ミテ*ハナさんたちは教室に入り、簡単に自己紹介を交えて挨拶とこれから行う活動についての説明をしました。子どもたちは、2つの教室を広々と使って5グループに分かれて、それぞれのグループには2人ずつミテ*ハナさんが入り進行していきます。いよいよアートカードを使ったゲームのスタートです。
まずは、神経衰弱のように裏返したカードから3枚を選んでひっくり返します。それらのカードから、「生き物」「人がいる」「空」「色が同じ」など、共通するところを見つけてみんなに伝えます。それに対してグループのみんなが「納得!」「うーん (納得できない)」などとポーズで表現し、みんなが納得してくれたら、カードをもらえます。大きな動きでポーズをして例を見せてくれたミテ*ハナさんをまねてみんなも練習してから、カードを選んでいきました。
神経衰弱ゲームでアートカードに慣れてきたら、次に取り組むのは、物語を作るゲームです。 自分がひいた2枚のカードと、机の上にならべたカードから1枚を選んで、合計3枚のカードを使って物語をつくるというもの。ミテ*ハナさんのお手本に拍手が湧いて賑やかな雰囲気で始まりましたが、実際に取り組んでみると、最初のゲームで共通点を探すコツを掴んでいた子どもたちもなかな難しそうです。手にしたカードとしばらくにらめっこしたり、時折響く笑い声とともに、各グループに真剣な表情が垣間見えました。
子どもたちの反応
授業が終わったあと、たくさんの子どもたちが集まってきて次々と今日のプログラムの感想を聞かせてくれました。紹介しきれないほどにたくさんの声を聞かせてもらったので、その中からいくつか紹介します。
Kくん「自分の説明に自分が納得できなかったのに、まわりのみんなが納得してくれてうれしかった。」
Sさん「物語をつくるゲームのときに、いい話ができちゃって、みんながめっちゃ笑ってくれました。」
Cさん「共通点を説明したときに、納得してくれない人がいたんですけど、他の人がこういうことじゃない?って言ってくれて、そしたらちゃんと納得してくれて、友達に助けられた感じがしました。」
Hさん「物語をつくるゲームは、友達がやるまでは何も思いつかなかったけど、みんなの話聞いていたら思いついて、終わったときには楽しかったです。」
Hくん「みんなが拍手してくれたのがすごい気持ち良くて、こんなに気持ち良かったのは、授業の時に発表で成功して、みんなに盛大に拍手されたとき以来だなーと感じました。」
Mくん「2枚の絵ではつくれなかった物語が、3枚をあわせてつくれました。あと、共通点を探すゲームで、みんなに納得してもらえなかったときに説得できるように違う言い方を考えるのもおもしろかったです。」
Tさん「2枚のカードを引いたとき絶対物語をつくれないなって思ったんですけど、ずっと考えてたらだんだん浮かんできて、そのときはすっきりしました。みんながつくったお話は自分だったら絶対思いつかないものだったので、すごい驚きました。」
自分自身が発見し、言葉にできたことに対する嬉しさと、他者の発話への驚き、それとともにお互いに認め合う喜びなど、どれも一人ではなかなか得られないことを短い時間でアートカードによって体験できたようでした。 佐倉市立美術館には今日の「ミテ・ハナソウ・カード」で出てきた作品があることを伝えると、「虹色っぽい作品で2人の人がいるカードがあって、他のみんなはロウソクみたいって言ってたんですけど、実際はどうなのか、もうちょっとよく見て調べてみたいです。」と、具体的に行ってみたい理由を言葉にしてくれました。作品を細部までよく見る習慣を身につけるとともに、自分が感じたことを表現する力を育むことができるというアートカードですが、早速その効果を感じた瞬間でした。
担任の先生にとっての出前授業とは
授業が終わったあと、ミテ*ハナさんたちは担任の先生も交えて、今日の授業を振り返りました。振り返りの場でも様々な意見が交換されましたが、5年1組の担任の宮坂先生と、2組の担任の尾坂先生にも改めてお話を伺いました。
―出前授業は子どもたちにとってどんな体験になったでしょうか
宮坂先生:カードではあったけれど、美術作品に触れる機会はなかなかないし、美術作品に対して自由にものを言っていい、自分の意見を言えたっていうのは貴重な経験ですよね。自分が言ったことに対して友達が反応して意見を言ってくれたり、アドバイスをしてくれたりしたことも普段の授業でなかかなか経験できないのでそれも有り難かったです。
尾坂先生:今年異動で市外から転任してきたので、「佐倉市ってこんなことやってるんだ」っていう驚きがありました。私もそうですけど、美術館ってちょっと遠いなとか、なかなか普段から行ける場所じゃないので、実際に足を運べなくても、学校の授業で子どもたちにこうした美術作品に触れる機会を与えることができる活動がすごくいいなと思いました。
―普段の授業と子どもたちの様子が違ったところはありましたか?
尾坂先生:普段積極的に発言できない子がずいぶん手をあげていたり、自分の思いがあまり声に出せない子も、言葉がたくさん出ていたように思いました。一人一人違うカードを持っているので違った観点で話しやすかったのか、絵を見て話すというそのものがよかったのか、担任としては子供たちが楽しく活動していたことが一番でしたが、普段は納得がいかなくても流してしまうような子が、「納得がいかない」と食いついていたのにはびっくりしました。
―活動中のミテ*ハナさんの様子はいかがでしたか
宮坂先生:一番に子供たちのことを考えてくださっているような気がしました。うちのクラスにはみんなと同じように話すのが苦手な子とかいろんな子どもがいるんですけど、どの子に対してとても上手に対応してくださっていました。ミテ*ハナさんたちが入ってくださることによって子どもたちは安心感が持てて、活動に対する理解がより深まったような気がします。
尾坂先生:みなさん、子どもたちの声に耳を傾けてくださって、すごいいい雰囲気で活動できました。ミテ*ハナさんみたいな方がいてくださるってすごい。こういう活動があるんだよっていうこと含めて、どんどん広めていきたいと思いました。
―何か記憶に残るやりとりみたいなのはありましたか?
宮坂先生:あるグループで、みんながポーズをとって同意する場面があったのですが、そういう中である子が「自分はちょっと違うぞ」ってハテナマークを出してたんですね。同意されなかった子はちょっと悲しい気持ちになるような気がしたんですけど、そこでミテ*ハナさんが「どうしてそう思ったの?」って声かけてくれて、別の意見を持った子の話をきちんと聞き、それに対してまた周りの子が意見を言って、最終的には納得したんです。初めに発言した子も納得してくれて嬉しかったと思うんです。どんな立場になった子も安心して楽しく授業が受けられるような工夫をしてくださっているなと感じました。
―「ミテ・ハナソウプロジェクト」に対する期待や要望などありますか
尾坂先生:友達の意見聞いて自分も言えるようになったという感想が印象的でした。きっと何度も出前授業に来ていただくことは厳しいと思うんですけど、活動を続けていっていただきたいと思いました。
宮坂先生:美術作品を通して言語力、聞く力ですとか考える力、いろんな力につながって、子どもたちの学習の仕方としては大きな広がりがあるなと思いました。ミテ*ハナさんたちの持っていきかたが上手で勉強になりましたし、私自身もまた機会があったら受けさせていただきたいです。
文:米津いつか